特異な個性で話題の、エフゲニ・ボジャノフを初めて聴いてきました。
【前半】
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3
ショパン:マズルカ 第21番、26番、32番
ワルツ 第8番、第5番、第1番
【後半】
リスト:エステ荘の噴水
ダンテを読んで
オーベルマンの谷
グノーの歌劇《ファウスト》からのワルツ
【アンコール】
シューベルト/リスト:セレナーデ
ショパン:英雄ポロネーズ
彼の個性は、結局のところ、ノンペダルの短めの乾いた和音連打やグールドばりのノンレガート奏法と、一転音量を落とした滑らかなレガート奏法との対比にありました。
これが成功していたのがベートーヴェン。
ボジャノフはおそらく、とても頭がよくて理知的なのでしょう、構成力が抜群なので、ベートーヴェンで弾き方をいろいろ工夫して対比の妙を演出しても、かっちりとしたソナタの枠の中に収まります。
スピード感、リズム感も抜群です。
そして、四角四面でしかめっ面で、偏執狂的な動機の連続のベートーヴェンから、楽しくも多彩な魅力を引き出し、再構築してみせました。
テンペストとワルトシュタインをつなぐ(19番、20番はソナチネ)ややマイナーで地味なこのソナタが、生き生きと現代に名曲として蘇った瞬間だったような気がします。
対して、ショパンになると、彼の奏法はややあざとく感じ、舞曲6曲も聴くと、同じパターンの表現に正直飽きがきました。
リストは比較的まっとうに弾いていたように思います。
しかし、時折現れる彼独自の乾き奏法が、リストの宗教性の高いこれらの曲の深みにマッチせず、軽薄な印象がしてしまったことは否めません。
メカニックは非常にすぐれていますが、エステ荘をもっと美しく弾けるピアニストはいくらでもいるし、ダンテをもっとデモーニッシュに弾けるピアニストもたくさんいると思いました。
アンコール1曲目は、ゆったりとしたテンポで、内省的に美しさを表現しようという意図はわかりましたが、シューベルトの死の臭いを感じさせるまでにはもう一歩というところだったでしょうか。
2曲目の英雄ポロネーズは、もう、ボジャノフのやりたい放題。
楽譜からどう読み取ったら、ああなるのか理解不能。
ノンペダルの箇所は、音が痩せすぎてしまって、さながら、骸骨のようなポロネーズになっていました。
面白い、と思えるところはひとつもありませんでした。
何はともあれ、いろいろ物議を醸すだけの才能であることはよくわかりました。
彼がただのパーフォーマーで終わってしまうのか、グレン・グールドのように、クラシック・ピアノ界に新機軸を打ち出すのか、興味をもって見守りたいと思います。
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