読売新聞のショパンコンクール評につっこむ
今日11月4日の読売新聞朝刊文化面に、今回のショパンコンクールについての記事が掲載されました。
(署名記事:松本良一氏)
ディープにコンクールを追っかけてきたものとしては、いろいろと突っ込みどころ満載の記事でした。
世界各国の俊英81人が腕を競った
エントリーは81名でしたが、3名不参加者がいたので78人でした。
ユリアンナ・アブジェーエワ(優勝者)
ブログではずっとユリアナ・アブデーエワと書いてきましたが、今後日本語でどう表記されるかはわかりません。
(ヤマハのニュースリリースではユリアンナ・アブデーエワ、月刊ショパンではユリアンナ・アヴデーエワ)
(アブジェーエワは)ショパン作品ならではの演奏スタイルを知的に洗練し、細部を徹底して磨き上げて高く評価された。
知的に細部を磨き上げていたことは確かだと思います。
後で楽譜見ながら聴いたら、それはよくわかりました。
しかし、「洗練」という言葉がふさわしいのかどうかはわかりません。
そこが今回の審査結果のインパクトだったと思うので。
実を言うと、アブジェーエワは本戦の協奏曲第1番がやや精彩を欠き、20日深夜の結果発表は、ちょっとした騒ぎになった。
この見解には大いに疑問を感じます。
アブジェーエワの本戦の演奏は、彼女らしさを発揮した堂々とした演奏でした。ブンダーに次いで完成度は高かった。
精彩を欠くどころではなかった。
結果発表が騒ぎになったのは、もっと違う理由です。
審査員以外の一般人の多くは(地元メディアを含め)アブジェーエワがショパンコンクールの覇者としてふさわしいと感じていなかった。
だから、結果発表は大騒ぎになった。
なぜ、この本質的な問題を書かないのか。
わかっていないのか、わかっているのに蓋をしているのか。
さすが大手メディア、ちっとも面白くありません。
(アブジェーエワは)審査員が好むショパンらしさを巧みにアピールしたことがわかる。
ある意味その通りですが、本質はややずれていると思います。
アブジェーエワは最後まで大崩れすることなく、自己の表現ができ、プロピアニストとしての素養を満たした。
といったところではないでしょうか。
ショパンコンクールは「ショパン弾き」を選ぶ特別な場であることを改めて実感した。
これも、私の感じ方は正反対。
アルゲリッチがどういうニュアンスで「優れたピアニストが優れた『ショパン弾き』とは限らない」と言ったのかは、ソースがわからないので何とも言えません。
ですが、今回のショパンコンクールは、優れた「ショパン弾き」を発掘するのではなく、優れた「ピアニスト」を選ぶ場になったのだ、ということ感じざるを得ません。
(アジア出身者の傾向を「音楽を何も感じず」と言ったハラシェビッチの言というのを受けて)テクニック偏重の日本のピアノ界は重く受け止めたい。
確かに、教わったまま、頭で計算したままという感じを受けた演奏もありました。
しかし、今回日本人全般に関しては単に技術不足、という側面が大きかったように思います。
音楽をきちんと感じさせてくれた日本人コンテスタントもいました。
結果的には、審査員の判断基準は一貫していた。
将来性や、ショパンらしさや、きらめく才能が、技術や完成度以上に評価されることがなかった。
そういうことだったのではないでしょうか。
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コメント
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まとコメです。
よこよこさま:
いらっしゃいませ(^o^)
>丹念で的確な読み応えある演奏評に大変共感しておりました。
お褒めにあずかり光栄です。
>その点では現役プロのピアニストが揃った今回の審査の確固たる一貫性を感じました。
ポーランド人審査員が多かった前回までと、どうやら傾向が変わってきそうですね。
>簡単に「ショパン弾き」という言い方をしますが、その実体を考えるのは相当難しい次元の話ですよね。
そうですね。
かつてのショパンコンクールの優勝者たちが果たしてショパン弾きか、ということもありますし。
>紋切り型の批評が
ショパコンの批評も某有名サイトなどは読むに耐えなかった・・・
うさぎさま:
結果発表のときの会場の異様な雰囲気と、動画配信のスタジオ解説者たちのお通夜のような表情。
あれがすべてを物語っていました。
投稿: まいくま | 2010年11月 6日 (土) 23時52分
まいくまさんに同感です。
まるで心理学の教科書に出てくる実験結果のように、世間は納得の方向へ向かっているなか、まいくまさんのようにはっきり思いを主張される方がいらっしゃることにホッとします。
私も、「巧いピアノ弾き」を選ぶコンクールだったように感じています。
投稿: うさぎ | 2010年11月 5日 (金) 06時17分
まいくまさん
初めまして。ショパンコンクール期間からずっと読ませていただき、
丹念で的確な読み応えある演奏評に大変共感しておりました。
私も今回コンクール結果から感じたのは、「プロのピアニスト」足るかどうかだったと思います。その点では現役プロのピアニストが揃った今回の審査の確固たる一貫性を感じました。
簡単に「ショパン弾き」という言い方をしますが、その実体を考えるのは相当難しい次元の話ですよね。でも、だからこそ「演奏」や聴くことは無限に楽しいわけですが。
それにしても「大手」メディア、本当にダメですね。
私は広い意味でこういう日本の結果オンリー、紋切り型の批評が
音楽を含め、教育や価値観を育てることをとても阻害していると思っています。
長くなってすみません。
投稿: よこよこ | 2010年11月 5日 (金) 04時52分