NHK「知るを楽しむ」のグレン・グールド3~モーツァルト、バッハ、ブラームス
本日、NHKの「知るを楽しむ:私のこだわり人物伝」グレン・グールドの3回目の再放送がありました。
これは、以前の放送で一度見ていました。
改めて見て、いろいろ感ずるところがありました。
まず、モーツァルトについて。
折しも、ピアノのレッスンでモーツァルトのソナタを猛勉強しています。
今まで何気なく聴いていたモーツァルトでしたが、きちんと習うと、まあ奥の深いこと深いこと。
先生に教えてもらうだけでも、相当な勉強になるのですが、ここはひとつ貪欲に、自分でもいろいろ本など買いあさって読んでいます。
数日前、興味深いテーマの著書が多い久元祐子氏の「作曲家別演奏法Ⅱ:モーツァルト」を読みました。
たぶん、非常に伝統的でオーソドックスな解釈のモーツァルト演奏法の解説です。
先生に教えていただいていることとも、概ね一致しています。
その中に、ピアノ・ソナタ第8番イ短調 K.310の第1楽章について次のようなことが書いてありました。
「この曲の緊張感を、疾走するテンポで表現することには賛成できません。昔から、グレン・グールドが猛烈なテンポで入れた録音が有名で、賞賛の対象になってきましたが、彼以外の演奏者には何の参考にもならないと思います。どっしりとした堂々としたテンポ感の上に、微妙なデュナーミクの変化を凝らすことが芸術的な演奏への道だと思います。」
これを読んだばかりで、今日はグールドのまさに疾走するテンポでの演奏を聴きました。(CDで以前から演奏は知っていましたが)
これに対して、評論家の吉田秀和と、小説家の平野啓一郎がコメントしていました。
吉田秀和は、グールドの演奏には驚いたが、グールドのこのアプローチから、昨今の若いピアニストが、モーツァルトから新しい魅力を取り出す演奏を展開していることに繋がっている、との評価。
平野啓一郎は、グールドの演奏自体が、左手の8ビート風の表現が大変格好良い、との評価。
私はグールドのモーツァルトは、やはりかなり違和感があって、あまり好きとはいえないのですが、コメンテイターの話を聞いてみると、なかなかどうして、捨てたものではないのだな、ということがわかってきた気がします。
ピアノ・ソナタ第13番 K.333の第3楽章のカデンツァを弾く映像が流れ、それに対し、吉田秀和がこんなに壮大で立派なモーツァルトはかつて聴いたことがない、と語ります。
確かにそう意識してみると、このカデンツァ部分は、まるでオーケストラが鳴っているような、大きな音楽になっていることがわかります。
ちょっと気に入ってしまいました。
久元祐子の解説は、もちろん真っ当なものだと思います。
しかし、グールドの演奏に対する評価は、やや厳しい感があります。
学習者が下手な真似をしたら大変、という親心からだとは思うのですが。
ちなみに、ヌーブルジェのイ短調ソナタの演奏~私は5月に金沢で聴きました~は、まさに久元祐子が述べるように、「どっしりとした堂々としたテンポ感」と「微妙なデュナーミクの変化」を体現したオーセンティックなものでありながら、みずみずしい鮮烈さにあふれた素晴らしい演奏でした。
【つづく】
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