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2009年5月16日 (土)

マウリツィオ・ポリーニ リサイタル@サントリーホール

【注意】(以下の記事はポリーニのリサイタルを聴いた、その日の正直な感想で、かつて大ファンだった者として、一抹の寂しさを抱えてのものです。長年クラシックピアノ界を牽引してきた巨匠に対して、大変失礼な言い回しとなってしまいましたが、決してポリーニの偉大なる事績をおとしめようとする意図はありません。2010年8月)

かつて、ロシアの巨匠ウラディーミル・ホロヴィッツが、長年日本人ファンが待望した初来日を果たした際の、NHKホールにおけるリサイタルについて「ひびの入った骨董」という名セリフを残したのは、音楽評論家の吉田秀和でした。

マウリツィオ・ポリーニは、ショパンコンクールの優勝後10年の研鑽期間を経て再デビューした1970年代においては、その圧倒的なテクニックとギリシア彫刻のような造形美、ラテンの太陽のようなまばゆいばかりの音色で聴く者を圧倒しました。
私もそのうちの一人で、不滅の名盤の誉れ高きショパンエチュード全集は、すり切れるくらい(当時はLPでしたから)聴いたものです。

今日サントリーホールで24年ぶりにライブで聴いたポリーニは、さしずめ「角が欠けたギリシア彫刻」とでもいうようでしたしょうか。

オールショパンプログラムでした。

【前半】
前奏曲 嬰ハ短調 op.45
バラード第2番 ヘ長調 op.38
夜想曲 嬰ハ短調 op.27-1
夜想曲 変ニ長調 op.27-2
ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 op.35

【後半】
スケルツォ第1番 ロ短調 op.20
4つのマズルカ op.33
子守歌 op.57
ポロネーズ第6番 変イ長調 op.53 「英雄」

【アンコール】
練習曲ハ短調 op.10-12「革命」
バラード1番ト短調 op.23
練習曲嬰ハ短調 op.10-4
前奏曲変二長調 op.28-15「雨だれ」
スケルツォ第3番嬰ハ短調 op.39

アンコールはへビーな5曲でしたので、3部構成といった方が良いでしょう。

1曲目はまだ耳が慣れず、曲もおとなしめですから挨拶がわりです。
バラード2番は、ヌーブルジェのサントリーホールライブCDと聴き比べです。
ポリーニの音は、なんだか芯がなくなってしまい、響きが団子のようになって宙を舞います。
全体的にグシャッとしています。
決めるべき右手の高音部のアタックが弱く、格好よくありません。
またディナーミクの変化も平板。
若きヌーブルジェの圧勝ではないでしょうか

夜想曲2曲も緊張感に欠けます。

前半のメイン、ソナタ2番。出だしがまず弱い。悲壮感漂うはずの第1主題の切れ味がない。
そして、昔のポリーニだったらありえないような、ミスタッチ。
第2楽章も危なっかしい。
葬送行進曲はまあまあとしても、やはり緊張感が今ひとつでしょうか。
第4楽章。響きに埋もれて、何も聞こえない。浮かび上がってくるはずのかすかな旋律が浮いてこない。

後半1曲目スケルツォ1番。
いきなり、危ない場面。
スケルツォなのに、諧謔的なノリがない。
相変わらず響かせすぎのお団子音響。

今日のリサイタルで全体的に言えたのは、ダンパーペダルを踏みすぎで、音が響きすぎてしまうのです。これは昔からあった傾向です。ただ、昔はタッチの粒立ちが明瞭だったのでそれでも聴けました。
しかし、今回はタッチ自体が弱々しくなってしまい、響きの中に埋もれてしまい、おまけに時折にごったりするものですから、とても不安定でカシッとしない音楽になってしまっていました。

マズルカは逆に今のポリーニには合うのかと少し期待をしましたが、3拍子の取り方がグシャっとしていて、やはりイマイチ。とくに有名な2曲目は左右のバランスが悪く、左手のリズムが響き過ぎて気持ちが良くありません。

子守唄は、さすがにテクニカルに緊張するところはなく、無難に弾いたと思いますが、昨秋ル・ジュルナル・ド・ショパンでアンヌ・ケフェレックが弾いた、実に美しくも艶やかな子守唄とは比べるべくもなく。

英雄ポロネーズは、ヌーブルジェのライブの怒濤の演奏が耳に残っています。
ポリーニが若い頃録音したポロネーズ集の英雄はそれはダイナミックなものでした。
この日の英雄はエッジがなくなり丸くなり、音の焦点がぼけているようです。弾けてはいるのですが、メリハリが弱く、ズルズルと音楽が間延びしている感じ。
中間過ぎの旋律的な部分は、ヌーブルジェは勇壮な部分との対比も鮮やかに非常にセンシティブに弾いたものですが、ポリーニは音が強すぎ、安らぎ感がありません。
英雄ポロネーズもヌーブルジェに軍配です。

しかし、日本人は優しいので、英雄ポロネーズが終わると怒濤のような拍手で老巨匠をたたえます。
そして、老巨匠は昔ながらのサービス精神で、5曲も、しかもエチュード、バラード、スケルツォと大盤振る舞いのアンコール曲を披露してくれました。

はっきり言って、バラード1番あたり(これも技術的にだいぶ危なかった)で「巨匠よ、ありがとう」と拍手を止めてほしかった。
ところが会場はますます白熱して、アンコールが進むごとにスタンディングが増え、おねだりです。
どうかと思いますねえ。

エチュードは昔の演奏が耳に焼き付いていますので、確かに面影はある。でも全く切れ味が違う。10-4など本当に聴くたびにひっくりかえるようでしたから。

最後のスケルツォ3番は、昔聴いたライブでもアンコールで弾いてくれた得意曲だと思いますが、今日はアンコール5曲目ということもあり、集中力もとぎれがちで、技術的にもうフラフラでした。
あんなにミスするポリーニは、元ファンとしては見ていられませんでした。

とにかく、今日はたくさんサービスしていただき、ありがとうございましたというしかありません。
(何でも、リサイタルの後サイン会を行い、長蛇の列ができたのとのこと。本当にご苦労さまです)

かつてスビャストラフ・リヒテルは、晩年になるとテクニックは衰えたものの、ピュアな音質は維持したまま、実に奥深い心に響く演奏をして、それらの記録がたくさんCDに残っています。

ポリーニもまだ年齢的に引退するような歳ではないでしょうから、何とかこれから達成できる境地というのをつきつめてもらいたいものです。
ショパンのテクニカルな曲は、もう弾かなくても良いのではないでしょうか。

(ポリーニファンの方、もし読んでしまったらごめんなさい)

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コメント

tamaさま

mixiもブログも拝見しました。
私と違ってきちんと良いところのフォローなどもなさっていて優しい方なのだなあと思いました。

私ももちろん今のポリーニを全否定するわけではないのす。
ただ、何せ、他のコンサート4つか5つ聴けてしまうような大枚をはたき、過去の圧倒的な演奏の記憶をかかえたまま、大きな期待をもって臨んだリサイタルであっただけに、失望感も大きく、このような不穏当な記事になってしまったしだいです。

おはようございます


さきほどMixi日記にコメントをいただいたtamaと申します。わたしもMixiのコミュニティのなかで書かれていた「事なかれ主義」のようなコメントに、違和感を感じておりました。ミクシィのなかでは触れていませんが、わたしの日記でも、おっしゃるような印象を感じたので、御一読いただければ幸甚です。

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